ツイッターで政府紙幣の話題が出たのでそれに関連して所感を
政府紙幣の定義
政府紙幣は新しく法令で運用を決めるため、その定義は現時点では存在しない。ここでは以下の定義の下、政府紙幣を発行すると仮定する。
- 民間では日銀券と全く同等に扱う。絵柄、決算・国債の償却等に関しても同様
- 政府紙幣を発行した場合、政府の自己資本に政府紙幣発行益を加算し、流動資産に政府紙幣を加算する
- 便宜上、政府紙幣損益を流動資産に記載する。政府紙幣損益は、財政出動などによって起きる政府紙幣の損益を記載する為の物である。
- 日銀に政府紙幣で国債を償却した場合、日銀券で償却した物として扱う。
この為、日銀が持つ国債を、新たに発行した政府紙幣で償却した場合
- 政府紙幣発行益 と 政府紙幣 は増加
- 国債 と 日銀券 は減少
となる。
1 政府紙幣と日銀国債引受はやっている事自体には大きな差異が無い
政府紙幣も、日銀国債引受も、その本質は通貨発行権によって紙幣を供給する という意味において大差は無い。
2 会計面では運用に差異が出る
企業や家計においては、会計において差異が出ない。政府紙幣も日銀券も、共に流動資産 現金・預金 として扱われる為である。
政府においては新しく自己資本に、政府紙幣発行益という分類が加わる。これは国債が他者資本(負債)に対して、通貨発行益は自己資本に分類される為、バランスシート等の面では変化がある。
中央銀行は、会計規模がどんどん縮小して行く事になる。中央銀行の資産である 国債は政府紙幣発行益に置き換わっていき、負債である日銀券は政府紙幣に置き換わる為である。
3 国民が起こす実際の行動は大きく差が出る
やっている事に大差が無いにも関わらず、その効果には大きな隔たりが生まれる。その原因は国民の意識にある。
国債もまた本質的には政府による通貨発行権に依存する以上、本来であれば返済する必要は無い。しかし、国債は会計上は政府の負債として扱われる上、国民感情として借金は返さないといけないという思いが根強い。
政府紙幣は、政府の自己資本に政府紙幣発行益を加える。誰がどう見ても未来永劫返す必要も、その気も全く無い分類になる。
この対立する二つの感情は、将来への増税 財政緊縮の予想とそれに合わせた消費行動となって現れる。国債が増えれば将来の増税を予想して消費を控えるが、政府紙幣発行益が増えれば将来のインフレを予想して消費を増やす方向に繋がる。
4 二次的三次的な効果に注視と対策が必要
消費行動に関しては以上の通りだが、それ以外にも様々な影響が出る。
- 将来的に国債が消滅する為、中央銀行とそれが出来る職務が消滅する
- 金融機関の国債を利用したビジネスモデルが崩壊し、銀行は貸出を増やす
- 海外投資家によって、厳しくインフレリスクが監視される事になる
- インフレは実質所得を減らす為、特に年金層に対して保証が必要になる
これらはよりインフレを加速させる要因となる。とりわけ売りオペによる通貨量調整が出来なくなるため、それに変わる通貨量調整制度が必要不可欠となる。
また、政府会計における政府紙幣損益の扱いが難しい。日銀と違い、政府は価値が変動する土地建物等の資産を大量に保有し、買い入れも行う。変動が起こる度に評価しなおさなければならず、再評価の際、日銀券と政府紙幣の二つの価値をどう考えるかという問題にも直面する。方法論を誤れば、日本政府は客観的な評価が出来ないとして扱われる事になる。
5 政府紙幣は必要か?
個人的な意見を言わせて貰えば、4のようなリスクを考えた上でもなお政府紙幣は必要不可欠だと考える。
デフレの20年は氷河期世代に失われた時間と機会を強い、このまま行けば30年後には 数千万人もの独居老人を僅かな若年層で支えなければならなくなる。これは今の高齢化社会とは比較にならない破滅的な問題である。 多少なりとも緩和する為には、明確で即効性があるインフレ路線と雇用政策で機会を増やす必要がある。
また、国債を利用した金融機関のビジネスモデルも見逃せない問題である。国債を買うだけで、銀行本来の役割を果たさず利益を出し、利益の為に消費税を筆頭とした増税がなされるというのは、国民にとって不利益甚だしい。
さらに、通貨発行権が国民が支持する政府に由来するという事を明確に出来る事も民主主義として重要である。通貨発行権と民意が切り離された状態は、いかなる民主主義の論理でも肯定されない。
政府紙幣は必要で効果的であり、かつ劇薬でもある。新しい政権には、この劇薬を上手く利用して、真の自由民主主義を築いていただきたいと願う。